一般社団法人 日本農業フロンティア開発機構

JAFDOの基本認識と
研究テーマについて

フロンティア領域の変遷とパラダイム・シフト

産業経済の発展は、常に科学技術の発展と、それによって見出されたフロンティア領域の拡大によってもたらされてきました。21世紀に至った今日、19世紀から20世紀にかけて産業経済の発展を支えてきた世界観は大きな見直しを迫られています。すなわち、天然資源の枯渇や自然環境の破壊を副産物とする産業システムの限界は既に明らかとなっており、継続可能な発展を実現するための新たなパラダイムが求められています。

こうした中、今世紀以降長足の進歩を遂げたDNAシーケンス(遺伝子配列の読み取り)技術により、従来の培養法では把握できなかった微生物叢の分析が可能となり、ヒトを含む全ての生物(動植物)が膨大な種と数の微生物と複雑な共生関係を形成することによって生存していることが明らかとなり、画期的な科学的発見が相次いでいます。こうした発見は、科学的に探査すべき未知の広大なフロンティアの存在を知らしめただけでなく、人々の考え方にも大きな転換をもたらし、人類の生存に不可欠な農業や医療の分野に革命的な変革を促すことになると予測されます。

19世紀以前のフロンティア領域:
《秘境》

文明圏と地理的に隔絶していたために、未知となっていた地球上の自然の探査

【微生物関連】レーウェンフックの自作顕微鏡による微生物の発見(1674)、・ジェンナーによる天然痘ワクチンの発見(1796)、コッホによる『病原体』(炭疽菌)の分離・同定(1876)、パスツールによる弱毒生ワクチン(狂犬病ワクチン)製造法の考案(1885)

20世紀のフロンティア領域:
《宇宙》

巨大で深遠なため新たな技術無しには観測することができなかった宇宙の探査

【微生物関連】微生物が産生する『抗菌物質』(ペニシリン、ストレプトマイシン等)の発見、感染症の根絶等を図るべく、細菌を死滅させる抗生物質〈antibiotics〉を多用 ⇒ 『アンチバイオティクスの世紀』

21世紀のフロンティア領域:
《微生物叢》

培養困難なものが多く新たな技術無しには観測することができなかった
厖大な種の微生物による未知の生態系の探査

【微生物関連】抗生物質耐性を持つ細菌の出現や植物や動物の生育に不可欠な『共生微生物』の存在が認識されるに至り、農業・医療の分野に〈アンチバイオティクスからシンバイオティクス〉のパラダイム・シフトが起きつつある。 ⇒ 『シンバイオティクスの世紀』

未知の巨大生態系 ~土壌と腸内の微生物叢~

地球上には10の30乗個(1,000兆の1,000兆倍)の微生物がいると推定されています。(これは、既知の宇宙にある恒星の数の100万倍以上の数に相当します。)地球上で微生物の密度が最も高い場所は、植物の根圏とヒトを含む動物の腸内と考えられていますが、そこには巨大で複雑な生態系が形成されていることが明らかとなりつつあります。

植物も動物も長い進化の過程において、微生物との複雑な共生関係を形成することによって相互依存的に生存してゆくかたちを確立し、これを未だよく分かっていない精妙な方法で世代を超えて継承する能力を獲得してきたと考えられます。つまり、自然界に存在する全ての動植物の個体は、厖大な種と数の微生物との集合体(holobiont:共生総体)として成り立っているということができます。

20世紀に発明された農薬(除草剤や殺虫剤)や殺菌を目的とする抗生物質(antibiotics)は、農業の生産性を高め、病原菌による感染症に治療法をもたらすなど人類に多大な恩恵をもたらしましたが、その濫用・多用によって、ターゲットではない共生微生物叢に重大な攪乱(dysbiosis)を引き起こすという副作用を惹起している事実が明らかになりつつあります。

根圏の微生物叢

【根圏】
植物が土壌から養分を吸収するために土壌中に伸ばす根と根毛の数は1株のライ麦で数十億本以上もあり、その総延長は数千kmに達する。
根圏の微生物叢
【根圏微生物叢】
根毛の周辺や内部には膨大な数(1gの土壌に数億個)の微生物(細菌・糸状菌他)が存在し、根毛からの滲出液を栄養源として、植物には合成できない窒素化合物やミネラルなどの有益な代謝産物を産生する他、病原菌の侵入を阻止する共生関係を形成している。

腸内の微生物叢

【腸内】
ヒトが食物から養分を吸収するための臓器である腸には、無数の凸凹構造(小腸の絨毛と大腸の腸陰窩)があり、その生理的表面積は300㎡に達する。
腸内
【腸内微生物叢】
腸内には膨大な種と数(推定で1,000種、100兆個以上)の細菌が存在し、腸粘液やヒトには消化できない食物繊維などを栄養源として、ヒトには合成できない短鎖脂肪酸などの有益な代謝産物を産生する他、病原菌を排除する共生関係を形成している。

図:『土と内臓』(築地書館)より一部改変

JAFDOの研究テーマについて ~土壌と腸内の微生物叢とヒトの健康~

農薬や抗生剤などの多用が、土壌や腸内の微生物叢に攪乱(dysbiosis)を引き起こし、その結果、農作物の劣化が生じ、ヒトや家畜の疾病につながっているのではないかと考えられ始めています。土壌は、鉱物や岩石などの無機物が細かい粒子になっただけのものではなく、動植物の遺骸などに由来する有機物と厖大な種と数の微生物や原生動物の集合体であり、過剰な農薬の継続的な散布により共生微生物叢を喪失した農地では、壊滅的な病害が多発し、もはや作物を栽培することは困難となります。ヒトや家畜の腸内においても、感染症の治療や予防を目的とする抗生剤の多用(家畜の場合は成長促進を目的として投与されている)によって、腸内細菌叢のdysbiosisが生じ、腸内細菌叢との共生関係によって維持されてきた免疫などの生体システムに異常をきたした結果、肥満(抗生剤が家畜の成長を促進するメカニズムと同じ)などの生活習慣病やアトピーなどの自己免疫疾患などの蔓延につながっているのではないかと考えられています。

当社は、こうした仮説を検証するため、①土壌(微生物叢)と作物(含有成分)の関係に関する研究、②食品(含有成分)と腸内細菌叢の関係に関する研究、③腸内細菌叢と健康状態(疾病)の関係に関する研究、④腸内細菌叢の検査・解析システムの研究・開発、の4分野の研究に取り組んでいます。

腸内細菌叢と健康状態(疾病)の関係に関する知見と、どのような食品(含有成分)の摂取によって腸内細菌叢がどのように変化するのかという知見を蓄積・統合することによって、食品による腸内細菌叢のコントロールによって疾病を予防・改善するという新たなソリューションを創出することを目指しています。

このことは、近代医学が登場するはるか以前から経験的に用いられてきた『医食同源』のメカニズムにおけるミッシングリンク(作用機序の不明部分)を、これまで観測することが困難であった腸内細菌叢というブラックボックスの可視化(定量化)によって解明することを意味しており、健康・医療の分野に大きな変革をもたらす可能性があると考えております。

研究テーマの概念図

研究テーマの概念図

※農薬の濫用・多用による土壌微生物叢の破壊が食品(含有成分)の劣化を引き起こし、それに加え、抗生剤の濫用・多用によってヒトの腸内細菌叢に攪乱(dysbiosis)が生じていることが、現代人の健康状態の悪化(生活習慣病や自己免疫疾患の蔓延)につながっているのではないかという仮説の検証を腸内細菌叢のというブラックボックスの可視化(定量化)よって行うという研究アプローチ